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毎冬、湯たんぽやあんかによる低温熱傷の方が、当院だけでも30名はいらっしゃいます。節電・省エネの流れのためか、特に寒気がひどい冬になってしまったためか、今年はややハイペースな感じです。
低温熱傷は、その大半が下腿(すね)に生じます。また、熱変性がかなり深くて、皮下脂肪レベルまで達していることが多いのですが、意外と痛くないため、受傷して何日もたってやっと受診なさるケースが半数以上。初期は単にぼうっと赤かったり、乾いて白っぽく(羊皮紙と言われます)見えるのですが、その後急に茶色く壊死を起こしたり、水疱や出血や浸出液が現れて、驚いて受診されます。揚げ油や熱湯のやけどは派手に見えても1~2週間で治ることが多いのに対し、低温熱傷は1ヶ月以上治らず、治ってもはっきりとした瘢痕が残ってしまいます。植皮手術を必要とするケースもあります。
湯たんぽやあんかは、寝る1時間前から布団に入れて、先に布団をあたためておきましょう。寝る時は足先へ押しやって、なるべくすねに近づけないように。すねが冷えないように足首ウォーマーをはいて寝ると、低温熱傷の予防にもなりますので是非お試しを。電気毛布や電気カーペットも、寝る前に十分あたためておき、寝るときに設定温度を必ず下げましょう。
疲れているときや泥酔時は特にトラブルが多いです。うっかりすれば誰でも起きうることなので、爆睡した自分を守れるように、普段からちょっとした対策を習慣づけていただきたいです。
某お茶石鹸による小麦アレルギーが問題になっています。実は、洗顔料・シャンプー・化粧品で皮膚トラブルやアレルギー湿疹がおきることはよくあり、決して珍しくはありません。ただ、そのようなアレルギーは、該当する商品や原因となった成分の使用をやめればすむことでした。今回の大きな問題は、原因となった石鹸の使用をやめても、日常食べる小麦粉製品に食物アレルギーが続いてしまうことです。このアレルギーになってしまったら、ラーメン、トースト、ピザなどを食べたあとに、顔がはれたり全身に蕁麻疹が出たり、ひどい場合は嘔吐や呼吸困難まで起こしかねません。
実は、小麦粉による食物アレルギーは以前からあったのです。特に、小麦粉を食べて数時間以内に運動すると、激しいアレルギー症状が起きることは、FDEIA(食物依存性運動誘発性アナフィラキシー)として警告されていました。ただしそのような症例はまれで、感作(アレルギーの成立)経路は、胃腸に直接入った食べ物によると考えられていました。
それが、経皮感作、つまり皮膚ついた小麦成分によってもアレルギーが成立してしまったことが最大の驚きでした。通常、皮膚の表面からアレルギーが成立する場合、分子量が1000以下の小型の化学物質(ハプテン)が表皮を通過してはじめて免疫システムが作動するからです。小麦粉のような分子量の大きなタンパクが、まさか洗顔石鹸でアレルギーを起こすとは極めて予想しにくいことでした。おそらく、目や鼻の粘膜や、皮膚のささいな傷、肌荒れなどから侵入したのではと言われています。今回の騒動は、アレルギーというものの不思議さをまたひとつ立証する教訓となりました。
とはいえ、企業や行政の対応は遅きに失し、アレルギーになってしまった方たちがどう対処すればいいのかは、今後の問題です。
食べて大丈夫なものは皮膚に塗っても安全・・・とは言えなくなりました。以下、私の勝手な想像ですが、今の主要先進国でアトピーやアレルギーが極端に増加しているのは、ひとつには皮膚を過剰に洗浄(シャンプー・ボディソープ)して常にバリアを傷つけるライフスタイルが大きな誘引になっているのでは。健康な角質に守られた皮膚は、本来小麦粉ごとき通過するはずがないのです。洗いすぎず、適当に皮膚を放っておくくらいがちょうどいいのではないかと思ってしまうのです。
長野市出身で昭和一桁生まれの人に伺うと、長野では昔しもやけを『ゆきやけ』と呼んでいたそうです。しもやけは都会の人が使う言葉だったとか。長野も次第に都市化してTVも普及するにつれ、今では『しもやけ』が標準語になりました。
近頃は雪焼けという言葉をを、スキーに行った後の日焼けの意味で使う若い方もいるようで、時代を感じます。
しもやけは、寒冷はもちろんですが、湿った状況で強く誘発されます。個人的な体験ですが、長野県の諏訪地方にいたころはしもやけはありませんでした。冬は非常に寒く、零下10度以下もザラでしたが、雪のないからっとした気候でしたから。しかし、秋田に転居したら生まれて初めてしもやけになってしまいました。秋田の冬は、気温こそせいぜいマイナス2〜3℃ながら、雪の多い地方のため常に路上に積雪がありました。ブーツのわずかな隙間から水が入って湿ったのがしもやけの原因。完全防水の長靴にして、部屋にこたつを入れたらしもやけは治りました。
そういえば、秋田にいたころ、職場(大学病院)に、関西方面の考古学者の先生から問い合わせをいただいたことがあります。文献でしもやけの記載が出てくるのだが、ご自分も周囲の人もしもやけをまったく経験したことがなく、どういうものか教えて欲しいとのことでした。電話で一生懸命ご説明したものの、果たして理解していただけたかどうか?
しもやけの方へのアドバイスですが、靴は完全防水にする、靴下が湿ったらこまめに履き替える、手を洗ったらきちんと拭いて乾燥させる、外出には手袋を着用する、などが大事だと思います。
タイトルは、かっかそうよう・まこそうよう、と読みます。
掻痒とは、かゆい部分を掻く事。
隔靴掻痒は、足のかゆみを靴の上から掻くように、もどかしいこと。
(広辞苑では歯痒いことと書いてありました。)
麻姑掻痒とは、物事が思い通りにはかどること。麻姑は、中国の伝説の仙女で、鳥のように長い爪で背中を掻くと気持ちがいい?らしいです。
かゆみというのは、実に不思議で説明のしようがない感覚ですね。皮膚科に受診される患者さんの訴えの第1位は『かゆみ』です。かぶれ、虫刺され、じんましん、アトピー性皮膚炎、乾燥肌などなど、とにかくかゆみのオンパレード。
ちなみに、大変かゆいイメージのある水虫ですが、実はかゆい人は少数派で、あるデータによれば水虫の人の8割は特にかゆみを感じないとか。困ったことに、痒くないがゆえに自分が水虫と気がつかないで放置する人が多すぎて、日本は水虫2500万人時代です。かゆみばかりを強調するCMも考え物ですね。
逆に、湿疹や蕁麻疹はかゆいものですが、その原因が洗いすぎや化学物質、乾燥肌やアレルギーなどであるにもかかわらず、『ダニじゃないですか、虫がいるんですか』と聞く方の何と多いことか。犯人でもないのに疑われるダニに迷惑かも(無論本当のダニ刺されの人も時々いますが)。
生物としてのヒトを考えるとき、私たちの祖先がどのように生きてきたかがヒントになると思います。何十万年も戸外生活で(農耕の歴史はほんの1万年)、野山を駆け回り獲物を追いかけたり木の実を採取したりの生活だったでしょう。虫やダニにさされると、痒み刺激として脳から『引っ掻け』という指令が出るようにプログラムされており、それによって虫を払い落としたことでしょう。ですから、洗いすぎや化学物質、乾燥肌による痒みも、脳内ではまず『虫か?』と認識されてしまうのかなあと思うのです。
現代生活のかゆみは、とにかく掻かないこと。軽く冷やしたり、何かでおおったり、洗い過ぎ・こすり過ぎを意識して控えるなど。本能のままに掻くのはやめた方がいいですね。とは言え、なかなか難しい、だってかゆいんだもん...
自分と皮膚科の出会いは、確か中学の1年生のころでした。足のゆびの間にじくじくとした皮むけと痒みがあり、地元の総合病院の皮膚科に受診したのです。女医先生は、私の足の皮をピンセットでむしって顕微鏡で見て、『ああ、水虫ね』と言いました。水虫!?オジサンの病気じゃん!私はショックでべそをかきながら、薬を受け取ってとぼとぼ帰った記憶があります。
今では毎日、患者さんの足の皮をむしっては、『ああ、水虫ですね』と宣告(?)を下す立場になりました。中学のころはまさか、自分が皮膚科の医者になろうとは夢にも思わなかったのですが。
今年、久しぶりに自分が水虫にかかってしまいました。滅多に行かない温泉ですが、たまたまそこの脱衣所で菌をもらってしまったようです。ちなみに温泉・プール・公衆浴場・スポーツジムなどの脱衣所は、不特定多数の人が裸足で歩くため、水虫菌が確実にいます。ですから、帰宅したら(遅くとも12時間以内に)足をシャワーやバケツでいいから洗って、タオルでしっかり指のまたまで拭いて乾かすのが、水虫対策です。と患者さんには言いながら、自分ではうっかり忘れたんですね、スミマセン。
てな訳で、自分で皮をむしって自分で検査して(ちゃんと真菌がいました)、毎日まじめに抗真菌剤をぬりまして、だいぶ軽快しました。しかし油断は禁物、まったく皮むけのない状態になってさらに2週間はプラスで継続すべきなので、最短コースでも1ヵ月半はきっちり塗らないといけません。
だいぶ良くなったのですが、2日前から突然かゆみが増し、しかも治療前よりかゆいという事態に。あれ??
この場合、主にふたつの要因が考えられます。ひとつは外用剤が無効である、もうひとつは外用剤によるアレルギー性のかぶれ(接触皮膚炎)。しかし、再検査しても菌はいないし、かぶれのような赤みはまったくない。
その疑問は今日解けました。何と、偶然にも水虫の部位の足指を、蚊に刺されていたのです。蚊に刺されて2日ほどたってから遅延型反応で赤みが出るので、刺された直後は、水虫のかゆみか虫刺されかわからなかったのですね。
診断で難しいですね〜、と何か落語のオチにもなりませんが、ご静聴ありがとうございます。さ、また頑張って塗るか。
今回のテーマは、皮膚の最外層バリアである『角質層』と、それを作り出す表皮のしくみについてです。
近年の研究で、アトピー性皮膚炎の患者さんは、角質層を構成する重要な蛋白質であるフィラグリンが、遺伝的にうまく形成されないことが判明しています。フィラグリンは、天然保湿因子(NMF)の主成分となるアミノ酸を作り出す原料です。これがあるおかげで、人間の皮膚は薄いのにしっかりしたバリアを保つことができるのです。角質層バリアは、適度に水分を保持し(砂漠の中でも皮膚は干からびません!)、紫外線や微生物、有害物質から体を守ってくれるのです。アトピー性皮膚炎の方たちは、ドライスキン(乾燥肌)でバリア機能が弱いので、粉をふくようにかさつくのみならず、本来なら皮膚に入り込まないはずの化学物質(特に洗剤系)が侵入することで、炎症やアレルギーを起こしてしまいます。
清潔にと思う余り、必死に皮膚を洗い続けてアトピー性皮膚炎を悪化させている人を見ると、何とかお肌を休ませて守ってあげられないか、説明に悩みます。
皮膚の表面を構成する二つの層について、これ以上ないくらい簡単に要約してみます。
1)表皮 ... 皮膚の最外層を構成する、生きた膜。
2)角質層 ... 表皮の表面をおおう、死んだ膜。
まず、表皮のもっとも深い部分で細胞分裂が始まり、表皮細胞が重なり合いながら上へ上へと押し上げられていきます。最初はたこやきみたいに立体的な形ですが、上へ行くにつれてクレープみたいに薄い形になります。
表皮の厚さは平均で50μm(マイクロメートル)、1mmの1/20という薄さ、ちなみにサランラップを3枚重ねた厚さに該当します。こんなに薄いのに簡単には破れないのは、細胞同志がお互い密に接着するしくみがあるためです。しかも単なる袋や膜ではなく、細胞のひとつひとつが、緊急時には免疫細胞として働く能力すらあるのです。
表皮が下から上に押し上げられて、角質に移行するのに1ヶ月かかります。表皮細胞は、その内部にバリア形成のための様々な物質を用意してから自然死します(アポトーシスと言います)。
角質層は、薄い角質細胞のすきまが細胞間脂質で埋められている状態です。クレープに生クリームを塗って次々重ねていくようなイメージ。この細胞は約20層からなり、全体の厚さは表皮の1/3くらいです。この、命のない角質バリアがあるおかげで、表皮から下の生きた皮膚は、紫外線、有害な微生物、有害物質から守られているのです。サランラップ1枚分の薄さですが、サランラップと違うのは、余分な水分は適度に放出しつつ、表面に皮膚常在菌(皮膚に有益な微生物)をはぐくむ仕組みまであること。
角質層は下から上に押し上げられて、約2週間で、最も外側の部分がすこしずつ脱落していきます。入浴しなくても、皮膚をこすらなくても、1日平均数gの角質が自然に脱落します。
つまり、ヒトの皮膚は、サランラップ4枚分の薄さの中に、1ヶ月半かかってゆっくりと脱皮するメカニズムを持っているということ。これ以上薄かったらバリアとしての役目は果たせないでしょうし、これより厚いうろこや甲殻だったら、ヒトの皮膚のしなやかさや運動能力は望めないことになります。実に精巧な、生命のしくみといえます。
(他にも、汗や皮脂、真皮、常在菌などスゴイ仕組みがありますが、きりがないので割愛)
では、毎日お風呂に入って、貴重な角質層を『垢』という名の汚れと勘違いしてごしごしこすったら?皮膚は生きていますから、何とか防衛線を守ろうとけなげに細胞分裂をフル回転させて角質を補充しようとします。しかし、もとからバリアの弱い顔の皮膚、乳幼児、アトピー性皮膚炎の人たちは補充が間に合いません。傷ついた皮膚から、シャンプーやボディソープなどの化学物質が侵入し、生きた表皮細胞を直撃し、緊急信号が出されます。つまり、かゆみとして認識されてしまいます。ヒトは、かゆければ掻く本能がありますから、つい掻いて爪で傷つけ、さらにバリアが痛む...つまり、自然界にない洗いすぎや化学物質の付着は、ヒトの歴史上かつてなかった事態で、人体実験と同じことです。
お肌のメカニズムを理解して、自分の皮膚を無駄に傷つける習慣をやめませんか。いい皮膚は、生き急がず、ゆっくり育ってきちんと死ぬのです。角質層の寿命(あ、もう死んでますけど)を全うさせてあげましょう。
シャンプーを毎日なさっているあなたに質問です。あなたは、激しい肉体労働をしていますか。ひどい脂性ですか。汗かきで困っていますか。それならば、毎日シャンプーする理由があると言えます。
そうではない人で、もし毎日シャンプーしているなら、さらに質問です。あなたは、ウールのセーターを、着ていなくても毎日洗濯しますか?ウールは羊の毛ですから、人間の髪と基本的には同じケラチン蛋白です。ケラチンは水に弱く、また洗剤類により損傷します。汚れていないセーターをもし毎日お湯と洗剤で洗ったら、セーターはぼろぼろになりますね。
シャンプーは、特殊な事情がない限りは、3日に1回程度で十分なんですよ。汗だけなら、実はお湯できちんと落とせるので、洗浄剤(シャンプー)はいらないのです。講談社少年マガジンの人気コミック、ゴッドハンド輝の最新号(56巻)の巻末には、温水シャンプーも話題が載っています。要するにシャンプー剤を使わないでお湯だけの洗髪のこと。頭皮のかゆみ、ふけ、匂いがなくなったという声が多数よせられているそうです。
えーっと思う方もいるでしょう。しかし主要先進国の一般アンケートでも、シャンプー毎日の人は少数で、むしろ3日に1回程度の人が多いのです。
シャンプー剤の主成分は界面活性剤と言いいます。油分を包み込んで水にとける形にして、洗い流すのが基本。ところが、人の(動物もですが)皮脂は、目の仇にして落とさなくてはいけないどころか、とても大事な役割があるのです。まず撥水(水をはじくこと)。毛根から出た皮脂は、髪の毛にからんで天然のコーティング剤となります。日本女性本来の長く美しい黒髪のつや、あれは皮脂のおかげ。他に、頭皮の皮膚常在菌(最近は美肌菌と呼ばれます)と協調して天然の弱酸性のバリアを提供してくれます。これが、他の有害な菌から肌を守ってくれるのです。
たまりすぎた皮脂はさすがに洗うべきでしょうが、きちんとした石鹸洗髪ですと、落ちた皮脂は回復に2〜3日かかることがわかっています。ですから欧米のシャンプーの回数は理にかなっているのです。ましてや日本人は、白色人種より皮脂が少ないのです。
汗を落とすならお湯のみで洗えばいいので、毎日必ずシャンプー剤を使わなければいけないとというのは思い込みに過ぎません。また、皮脂は老化とともにどんどん減ってきますから、若い人が毎日皮脂を洗い落とすのは、自ら老化を促進しているようにすら見えますね。
シャンプーが大好きでとにかく毎日洗いたいあなたや、脂性で毎日洗髪が欠かせない方を批判しているのではありません。疲れて毎日のシャンプーも負担だとか、頭皮がかさかさでかゆいのがシャンプーのせいと気がつかない人までが、毎日洗わされている現状がおかしいと思っているのです。自分の頭皮を観察して、自分の生活の現状に合わせて、適正なシャンプーの回数を見つけてみてはいかがでしょうか。
ps;多くの人が無意味ななシャンプーをやめれば、この震災の非常時に、貴重な水や電気・灯油などのエネルギーをかなり節約できるのですが。
『老いの才覚』という本がすでに販売70万部を突破したとニュースで聞いて早速買いました。ベスト新書、762円+税。
実は私は曽野さんの著書を何冊も読んでいて、十代の頃には『戒老録』を愛読(?)していました。十代でえらく渋い本を好んだものですが、それをお書きになった曽野さんご自身も三十代だったはず。ずばずばと小気味良い切り口で、高齢者の甘えを諫める本でしたが、若い世代にも通じる戒めでした。
今回の『老いの才覚』でも、後期高齢者ご本人である著者や、その周囲の色々な方のエピソードを盛り込みながらより具体的に論じておられます。
ただし、ここで言う老人の定義は必ずしも年齢のことではありません。『若くても、他者への配慮がなくなったらそれが老人なんですよ、(中略)他者への気配りがあれば七十代でも壮年なのです。』と、精神面における自立、忍耐などを重要視しているのです。
また、人生はままならぬもの、という考え方も一貫しています。為せばなる、と言うのは思い上がりで、世の中にはどんなに努力しても報われないことばかり。成果主義や結果論では、人生の不条理や運命をくつがえすことはできないと思うのです。子育てでも、病気でもそうです。
高齢になるまでなにひとつ病気に縁がなかった方は、いざ何か病気にかかると、食べ物が悪かったのか、ストレスが良くなかったのかと犯人探しに悩むようです。しかし、医者の立場から言うと、これまで病気をしてこなかったのが幸運だっただけであって、自分が何か悪いことをしたからという懲罰で病になったわけではないのです。それに、病気をすると、ものの見方が深まったり、他者への苦しみに共感する心を持つことができます。一概に不幸とか不運で片付くものではないでしょう。
待合室にはほかに、曽野綾子さんの『安心したがる人々』(小学館)も置いております。
前回、患者さんへの問診で困ること、『ずっと前から・・・』をご説明しました。
今日は、患者さんに言われて医者が困る言葉、『ふつうです』について。
ニキビやアトピー性皮膚炎などの患者さんに、『食事はふだんどんなものを食べていますか』と伺うと、かなり多くの方が『ふつうです』と答えます。ところが具体的にここ数日の食事内容を聞いてみると、てんでばらばら。ある人は朝食抜き、ある人は1日3食パンとコーヒー、朝食がとんかつ3切れ(主食なし)の中学生も『ふつうだよ、いつもこんなもんだし』と言いました。
ふつうって、いったい???
睡眠時間も、お風呂の入り方も、一番多い答えが『ふつうです』。1日5時間の睡眠や、44度の入浴は、医学的には普通ではないのですが。
『化粧品は何をお使いですか?』『ふつうです』・・・普通という名前の化粧品はないんですけど。
と言うわけで、ため息をつきながらもしつこく具体的に聞き出していく作業が必要になります。
『ふつうです』とおっしゃる方のは、いくつかのパターンがあるようです。
ひとつには、自分の生活そのものに無関心な方。日頃飲んでいるお薬の名前も、使っているシャンプーの銘柄も、ただ言われたから飲んでいる、置いてあるから何となく使っているだけで、自分の生活や体に無頓着なんですね。
もうひとつは、薬の名前も化粧品の銘柄もきちんと覚えているのに、『ふつうです』とおっしゃる方。日本人特有の、奥ゆかしさというか遠慮というか、もし名前を口にして、珍しいとか少数派に見られたらという不安感なのでしょうか。ひたすら普通とだけおっしゃいます。
年配の方の中には、血圧の薬を出されても、名前を極力覚えないようにしているという方までいて驚かされます。理由は、患者が薬の名前など覚えると、主治医の先生に悪いので、だそうで、奥ゆかしすぎです。
胸を張って、『私はこの商品を、こういう理由で選んでいます』と言うようなタイプの方は少ないですね。(逆に、そういう方は皮膚科に来る前に自分で問題を解決しているのかも)
これだけ社会が多様化しているのに、普通とか世間とかいう幻想に支配されて、そこからはみだす事を極端に怖がっていらっしゃるのは、ストレスになりそうですね。ご自分が思い描いている世間という概念は、99%幻想に過ぎないのですけれど。少なくとも皮膚科的には、お肌というものは、年齢・性別・体質・生活状況などで、ひとりひとりまったく条件の異なる個性的なものと考えております。軸足をご自分に置いて、ご自分の体やお肌ときちんと向き合ってください。『普通のお肌』の基準など、存在しないのです。CMでバンバン宣伝している商品でも、自分に合わなければ意味がありませんから、使ってだめならさっさとやめましょう。売り上げナンバーワンとか、みんな使っていますなどというセリフは無視しましょう。
昭和天皇は、『雑草と言う名前の植物はない』と仰せになりました。実に味わい深いお言葉ですね。
ところで、あなたがふだんお使いのシャンプーは何ですか?
えっ、『ふつうです』って?? ・・・いえ、ですからね・・・
日々電子カルテのお世話になっております。当院は手狭なので、紙カルテのままで行ったらその収納で今頃は診察室がひとつ占拠されていたかも知れません。テーブルの上にコンピューター端末があれば、すべてのカルテの記録や検索ができるのですから、自分が医師になった頃には全く想像もしていなかったスタイルです。看護師さんに、字が汚くて読めません!とお叱りを受けることもなくなりました。
診察中、珍変換があると面白がって記録しておきます(これは手書きメモ)。という訳で前回に続いて第2弾。
胃腸 → 鴨脚樹 木のイチョウって、こうも書くのですね。格調高いなー。
でも医学ソフトとしてはどうよ?
消化機能 → 焼痂昨日 きのうカサブタを焼きましたって?
お惣菜 → 襲う剤 人を襲う薬...コワイ
ご飯食 → 後繁殖 ご飯は日本人の基本だね。食べて栄えよう。
行きたい → 胃気滞 気滞とは、漢方医学でエネルギーの停滞のことです。
登下校時に → 峠工事に 小学生は行かないだろうな。
岩盤浴 → 瞼板良く 新しい用語には弱いようです
発疹が出たら → 発疹がで鱈 ここまでくると出鱈目?
以上、富士通のソフト、DR`s NOTEくんでした。名誉のため申し上げますが、珍変換は文字通り珍しいから笑えるのです。ふだんは真面目に変換してくれていますよ。
さて、第3弾はあるのでしょうか。